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最高裁判所第一小法廷 平成9年(行ツ)206号 判決

東京都練馬区谷原二丁目一〇番五号

上告人

横山孝子

同所

上告人

横山貴子

同所

上告人

横山ちなぎ

右三名訴訟代理人弁護士

正田茂雄

東京都練馬区栄町二三番七号

被上告人

練馬東税務署長 倉島伸司

右指定代理人

大竹聖一

右当事者間の東京高等裁判所平成八年(行コ)第八〇号相続税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成九年五月二二日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人正田茂雄の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件相続開始前に本件宅地が彰夫の事業の用に供されたとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件には適切でない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

(平成九年(行ツ)第二〇六号 上告人 横山孝子 外二名)

上告代理人正田茂雄の上告理由

控訴審判示は、租税特別措置法第六九条の三第一項(特措法という)の「事業の用に供した」に関し、法令解釈の誤り、実務上の経験則違反、理由不備、採証法則の誤りがあり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるので破棄されるべきである。その要旨は、

第一、事業の用に供した時期は、権利確定主義によって解釈されるべきである。

第二、権利確定主義は、所得税法に限らず相続税法にも適用される一般税法概念である。

第三、本件事案の事実関係からすれば、事業の用に供されていたと解釈されなければならない。

第四、

一、本件事案で、彰夫が平成三年二月一日以降営業が出来なかったのは、東京地方裁判所の執行官が営業妨害したからである。

二、本件事案の保全訴訟の結論と本案訴訟の結論はいずれも平成三年二月一日以降事業の用に供していたことで解決している。

第五、本件控訴審判決は、前例高裁判決と矛盾しているので最高裁判所の統一見解が欲しい。

以上、区分して詳述する。

第一、事業の用に供した時期は、権利確定主義によって解釈されるべきである。

事業の用に供したとは、法律概念、解釈の問題であり、事業の用に供したと言う法律関係の確定した時期である。

しかるに、控訴審判決は権利関係確定後に生ずるところの個々具体的な覆行行為として事実行為(すなわち、駐車場なら駐車している車の存在及び料金の集金等の営業事実があったこと)をもって事業の用に供した時期であると言う誤った判断及び法律解釈をしている。

駐車場事業なら、

(一) 駐車場経営に関する人的、物的、諸設備の整備及び関係人らと契約交渉していると言う経済的期待の可能性、リスク回避の可能性と言う段階と、(契約交渉状態)

(二) 契約締結が済み、目的物の引渡した段階と、(契約締結)

(三) 契約締結によって生ずる各種権利義務に基づく覆行行為、不覆行行為の種々の段階、(契約締結後の契約どおりの覆行状態、ないし契約違反による不覆行状態)

が時系列に生じる。

控訴審判示に従えば、

(一) 社会的基盤が未形成と判断される時、

(二) 社会的基盤が形成されたと判断された時、

(三) 社会的基盤が形成済と判断されたことに基づく覆行の数々、及びその反対としての形成済のものへの覆行阻害行為の数々の時、

が段階的に経過する。

そして、法律上の権利確定した時期は、(一)単なる経済的期待可能性がある時は、準備行為の数々の時期であり、その時期でもなければ、(三)法律関係確定後に生ずる個々具体的な覆行行為ないし不覆行行為の数々の時期でもない。

これでは多義的かつ不明確であり、客観的基準足り得ない。事業の用に供したと言う法律関係が確定した時期は、右各(二)を指すのが正しい解釈である。これが一義的かつ明確な客観的基準である。

収入計上すべき時期とはいつかについて、会計学上では発生主義、実現主義、現金主義等々の考え方があり、一般的には実現主義(給付の提供が行われ、それがある程度確実な債権(未収収益)となるときは、時の経過に従って給付の対価が実現したものとして、今だ現金収受した事実がなくても収益に計上すると言う会計原則)が採用され、その税法的解釈は権利確定主義とされてきた。(最高裁判所平成四年(行ツ)第四五号事件・最民四七巻五二七八頁、同平成三年(行ツ)第一七一号事件・裁判民集一六六号五二五頁、同昭和五〇年(行ツ)第一二三号事件・最民三二巻一号四三頁以下その他多数下級審判例有り)

本件事案では後記第三、記述のとおり、関係人間では駐車場営業に関する法律関係は確定し、平成三年二月一日以降、三月、四月、五月とも元来あるべき駐車場収入は後記理由によりなかったが、それにかわる補償金としての収入があり(甲第一八号証及び二五号証で、トリムシテイーより彰夫側に二月一日より五月一五日までの間に月六、〇〇〇万円の入金事実があることは証明済)、それは本件不動産収入として所得申告し、国はこれを是認している。

この不動産収入の源泉となったのは、本件不動産を駐車場に供した事業用資産からの収入である。

営業している(事業の用に供している)→事業上の収入がある。

→阻害されれば補償金としての収入がある。

営業していない(事業の用に供していない)→事業上の収入はない。

→阻害されても補償金収入はない。

これは、税務実務上の経験則として表裏関係にある。

所得税法上本件不動産を事業用に供された資産収入扱いをしておいて、相続税法上本件不動産を事業用に供された資産扱いしないのは税法体系上矛盾であり、一致した扱いをすべきである。

事業の用に供したと判断される時期はいつかとか、収入計上すべき時期等々は、いずれも一般税法概念をもって統一的に判断されてきたところの権利確定主義の原則が判例及び実務の大勢である。現金が入金された時が収入の時とか、車が駐車行為をした時が事業の用に供した時と言うような関係人が恣意的に選択することが可能な時期は、多義的にして不明確になり、そして主観的基準にすぎず採用すべきでない。

第二、権利確定主義は、所得税法に限らず相続税法にも適用される一般税法概念である。

控訴審は(二三頁以下二四頁四行目まで)、

「ところで、権利確定主義とは、一定の課税期間における所得計算に際しての収入等の計上期間についての判断基準であるところ(所得税法三六条一項参照)、相続税の課税対象は、所得そのものではなく、相続開始時点における被相続人の財産であり(相続税法一一条)、その価格の計算は、当該財産の取得時である相続開始時における価額(時価)によるべきものとされている(相続税法二二条)。そうすると、所得税と相続税とは、その課税客体において、前者が各種所得である一方、後者が遺産という点において異なるし、また、前者においては一定の期間を前提として収入等の計上期間をいつとするべきかが問題となるのに対し、後者においては相続開始時という一時点を捉えて課税価格を算定する物で、その計上期間が問題とならないという点において、明らかに異なるのであって、所得税においてその収入等の計上時期につき権利確定主義の基準によるからといって、相続税の解釈、とりわけ、本件特例の解釈・適用において、この基準によるべきことにはならない。したがって、事業の用に供した時期とその事業の収入計上時期とは表裏の関係にあることから、事業の用に供して時期の判断においても、事業の収入等の計上の時期の判断基準としての権利確定主義によるべきであり、その結果彰夫が平成三年二月一日以降本件立体駐車場を営業の用に供していることになるとする控訴人らの主張は、これを採用することができない。」と判示する。

これは、理由不備ないし理由自体が誤っており、全体的に何を説明しているのか上告人には理解出来ない。

権利確定主義の原則は税法一般の共通概念であって、所得税、法人税には適用するが相続税には不適用と言うようなことは有りえない。

相続税は、人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度で、遺産取得税と呼ばれ、実質的には所得税の補完税制度である。

所得税は暦年期間において、一定期間の期末においてその期間の収入から経費を差し引いて収益を計算するか、期末の資産、負債から期首の資産、負債を差引いて計算するかのいずれかによる。(損益法立証と財産法立証の関係)

相続税は、人間の出生日から死亡日までという一生涯の期間損益を期首(出生日を指す)を資産、負債を零としてスタートし、死亡日を期末として総収入から総経費を差引して計産する方法も有るが、その方法ではなく、期末(死亡時を指す)において資産、負債を差引して計算する制度を採用しているのである。(財産法立証による)

一、暦年か一生涯の相違は有るが、やはり期間損益であることや、

二、暦年の期末か一生涯の期末(死亡時を指す)かの相違は有るが、やはり期末において資産、負債の帰属はいつの時期と見るべきか、

は同一である。

あえて言えば、相続税で言うところの遺産とは、人の一生涯という期間損益において所得税の権利確定主義に基づく資産、負債の総合計、総累計としての結果である。だから、相続税は所得税の補完税なのである。

そして、相続資産から相続債務を差引計算する為には、相続資産たりうるのか、いかなる資産たりうるか、相続債務たりうるのか等々を検討されなければならない。この際には、常に「計上時期」は問題となる(前記判示二四、二五頁は誤っている)。この場合の基準は権利確定主義の原則によって区分するのである。

死亡時と言う時期において物権と認められる為には、排他的支配権が法律上認められるかの判断であり、債権と認められる為には、相手方に対し法律上請求権が認められるか等々の判断が必要になる。

ところで、本件訴訟では相続人にいかなる遺産が取得されたと言うべきか(言い替えると、いかなる遺産として計上すべきか否か)と言う争いをしているのである。

例えば、(イ)相続人が生前自分の不動産の売買契約を締結し、その覆行が済む前に死亡してしまったとすれば、その売買代金債権が相続により取得されて、不動産は取得していないと言うべきか、それともその債権ではなく目的不動産が相続により取得されたと言うべきか、又、相続人が生前不動産の購入の為売買契約を締結し、覆行が済む前に死亡してしまったとすれば、当該不動産は遺産に入るのか否か。(ロ)相続人が生前不動産の賃貸借契約を締結して死亡してしまったとすれば、契約内容はどうなっているのか、目的物の引渡しが済んでいるのか、賃料は未収なのか回収の継続中なのか等々により目的不動産の評価は、賃貸用不動産として評価すべきなのか、更地の不動産と評価すべきなのか、又、現金入金が済んで、それが死亡日に残っていれば手持ち現金、未収ならそれは未収債権として遺産の中に入るのか入らないのか、かかる場合何を基準にどの遺産に入り、どの資産が遺産に入らないと決めるのだろうか。

又、遺産に入ったとして、どのような遺産として評価をすべきなのだろうか。

「収益を取得する」は課税期間の期末の時点の評価であり、「遺産を取得する」は死亡の時点の評価であって、評価の仕方は同一である。

遺産の範囲の確定、相続債務の確定及びその計上時期の確定は、いずれも権利確定主義の原則こそがその区分基準である。

(例えば、

1、最高裁判所・昭和四九年九月二〇日・判例時報七五七、六〇

2、東京高等裁判所・昭和五五年五月二一日・訟務月報二六巻、八号、一四四四頁

3、最高裁判所・昭和五五年六月一六日・税訴資一一三、六五三

4、最高裁判所・昭和六一年一二月五日・訟務月報三三巻、八号、二一四九頁

5、最高裁判所・昭和六一年一二月五日・訟務月報三三巻、八号、二一五四頁

6、最高裁判所・平成二年七月一三日・税訴資一八〇、一三

7、最高裁判所・平成五年二月一八日・判例タイムズ八一二号、一六八頁

8、東京高等裁判所・平成六年三月二八日・税訴資二〇〇、一一九八

これらが、税務実務及び公表された司法判断の常識である。)

法人税、所得税が「収益を取得する」のと、相続税が「遺産を取得する」のとでは、その発生原因が経済活動によるか人間の死亡によるかの相違は有る。しかし、取得の効果として経済的利益がある点では同一である。

法人税、所得税は継続性からして、その収益の取得には期間損益が問題にならざるを得ないのに対し、相続税は不可避とは言え偶発性からして一生涯に一回の期間損益しか問題とならず、法人税、所得税が予定しているような期間損益は相続税にストレートに適用にならない。しかし、双方とも期間損益であるから、計上時期は多数判例の示す如く大きな争点になってきた。

次に「遺産(資産と言い替えても可)を取得した」とか、「収益を得た」という場合には、どんな資産ないし収益を、いつ取得したのか(計上すべき時期の争い)については、その資産に応じた法的に支配可能なすべてであり、その時期は法人税、所得税は一定の期間の範囲内の期末であり、相続税は一生涯の期末を指す死亡時である。

そして、ある資産につきその性質に応じて法的に支配可能な状態になっているか否かは、相続税は法人税や所得税とは税の仕組みが異なっているが、いずれも税法一般に共通した原則である権利確定主義の原則で区分するのである。

権利確定主義は、法人税、所得税、相続税いずれにも適用されている。

法人税、所得税によれば、本件不動産は権利確定主義の原則から、二月一日以降は駐車場事業用地であり、駐車場事業用地からの収益は不動産収入である。

そして、目的物が引渡されている以上、二月一日以降は未収であっても回収済であっても、収入があったと判断される。国もかかる取扱をしている。

仮の話だが、国は彰夫の相続人らに対し、死亡時に本件不動産収入が未収状態だったら未収賃料として遺産に含める扱いを採用したに違いない。

そして、相続税法によれば本件不動産は権利確定主義の原則から二月一日以降駐車場事業用地として評価されるべきであり、駐車場収入は二月一日以降回収済でかつ死亡日に保有してあれば手持現金扱い、預金してあれば預金扱い、未収であれば未収債権として遺産として相続されることになる。

上告人が具体的な事業を指摘して権利確定主義の原則からしても、本件不動産は駐車場事業用地に該当すると各主張してきたが、控訴審は相続税法にはこれを採用しないと言う誤った理由ないし理由不備をしている。

第三、本件事案の事実関係からすれば、事業の用に供されていたと解釈されなければならない。

本件事案の控訴審における認定事実は以下のとおりである。

1 彰夫が本件宅地及び本件立体駐車場を取得するまでの経緯等

(一) 本件宅地を所有していたオクト株式会社(以下「オクト」という。)は、平成元年八月三〇日、完成予定日を平成三年一月末日として本件立体駐車場の建築を発注し、建築途中の平成二年二月二三日、株式会社大野宗太郎商店(以下「大野商店」という。)との間で、本件立体駐車場が完成したときに、オクトが大野商店に対し、本件立体駐車場を月額一三一六万二五〇〇円で賃貸する旨の賃貸借仮契約を締結した。

(二) オクトは、平成二年一〇月二六日、株式会社トリムシテイ(以下「トリムシテイ」という。)との間で、本件宅地及び建築中の本件立体駐車場を、代金合計七五億四三九四万一〇〇〇円(三回の分割払い)、本件立体駐車場の所有権を完成予定日の平成三年一月末日に最終分割金の支払と引換えに移転するとの約定で売り渡す旨の売買契約を締結した。

(三) 彰夫は、原告ちなぎの夫で株式会社東立(以下「東立」という。)の代表者である横山健治(以下「健治」という。)を介して、相続税対策として本件特例が適用される事業用宅地の購入を検討し、駐車場の運営・管理をトリムシテイ側で行うことを条件に、同社との間で本件土地及び本件立体駐車場の売買契約を締結することにした。(乙三〇号証ないし三三号証)

(四) 彰夫は、平成二年一二月二六日、本件宅地及び本件立体駐車場の購入資金として、三銀モーゲージサービス株式会社(以下「三銀モーゲージ」という。)から、九三億円を借り受け、トリムシテイとの間で、本件宅地及び建築中の本件立体駐車場を代金合計八〇億円(二回の分割払い)、本件立体駐車場の所有権を完成予定日の平成三年一月末日に最終分割金の支払と引換えに移転するとの約定で買い受ける旨の売買契約をし、トリムシテイから、本件宅地の所有権に移転登記手続を受けた。

(五) 前記(二)、(四)の各契約当事者である彰夫、オクト及びトリムシテイは、本件立体駐車場の竣工が早まったことから、残代金の支払等を繰り上げることとし、平成三年一月二九日、関係者が集まって各残代金の支払、トリムシテイに対する本件立体駐車場の引渡等を行い、彰夫は、平成三年一月三一日、同月二七日新築を原因として本件立体駐車場の所有権保存登記をした。本件立体駐車場は、ターンテーブル内蔵型の立体駐車機械五基で、収容可能台数一九五台という規模であったが、登記簿上では、種類「駐車場、事務所」、構造「鉄筋造亜鉛メッキ鋼板葺二階建」、床面積「一階二一〇・〇二平方メートル、二階五七・八五平方メートル」とされた。(登記内容について乙一四号証)

2 本件立体駐車場の営業が開始されるまでの経緯等

(一) トリムシテイは、前記1(三)、(四)の合意に基づき、本件立体駐車場の営業開始を平成三年二月一日と予定して準備を進め、〈1〉本店の移転(甲六号証)、〈2〉プリペイドカードの発注・納品(甲七号証の一)、〈3〉月極め駐車の予約申込み開始等の宣伝活動(甲八号証)〈4〉社員・アルバイトの募集(甲九号証)、〈5〉同月二日に予定していた竣工式の手配(甲一一号証)等を行っていただけでなく、〈6〉トリムシテイを貸主として一般の利用客との間で同月一日又は同月三日を利用開始日とする自動車保管寄託契約を彰夫が本件立体駐車場の所有権を取得する前の平成二年一二月一〇日に一件、平成三年一月二〇日に二件それぞれ締結していた(甲一〇号証の二ないし四、ただし、乙二六号証及び二七号証によれば、右各契約で定める保証金の授受が現実に行われたとは認められない。)。そして、同月一月二九日、彰夫と東立との間で、「彰夫と東立とは、彰夫が第三者に賃貸する立体駐車場の管理業務に関し、以下のとおり合意した」として、業務委託契約(以下「本件業務委託契約1」という。)を東立とトリムシテイとの間で、「東立とトリムシテイとは、東立が第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務に関し、以下のとおり合意した」として、業務委託契約(以下「本件業務委託契約2」といい、両契約を併せて「本件各業務委託契約」という。)がそれぞれ正式に締結された。(甲四号証、五号証)

(二) 前記1(一)の賃貸借仮契約の借主であった大野商店は、平成三年一月二五日、東京地方裁判所に対し、オクトを債務者として、本件立体駐車場の引渡しを求める仮処分の申請をし、同裁判所は、同月二九日、右申告を認容する仮処分決定をし、同月三〇日、その執行が行われた。これによって、本件立体駐車場の占有が大野商店に移転したため、トリムシテイらは、同年二月一日に本件立体駐車場の営業を開始することができなくなった。

(三) 彰夫は、オクトが右仮処分決定に対して行った保全異議申立てに補助参加するとともに、本件立体駐車場の引渡しを求める仮処分を申請したが、係争中の平成三年四月三〇日、死亡した。

(四) 東京地方裁判所は、平成三年五月一日、大野商店の申請に係る仮処分決定を取り消すとともに、彰夫の申請を容認する仮処分決定をし、その執行により、同月二日、原告らが本件立体駐車場に対する占有を取得し、トリムシテイは、同月一五日以降、本件立体駐車場の営業を開始した。

右第三、の事実関係からすれば、

(一) 本件業務委託契約1及び2が平成三年一月二九日締結され、同日トリムシテイにたいする本件立体駐車場の引渡し(占有の移転)も行われている。

(二) このことを前提に、トリムシテイを貸主として一般の利用客との間で、二月一日又は二月三日を利用開始日とする自動車保管寄託契約を彰夫が本件立体駐車場の所有権を取得する前の平成二年一二月一〇日に一件、平成三年一月二〇日に二件、それぞれ締結していた。

このことをもって、税務事務上の経験則及び多数判例からしても、本件不動産は本件立体駐車場と言う事業用地に供していることが法律上確定したと言うべきである。

第四、

一、本件事案で、彰夫が平成三年二月一日以降営業が出来なかったのは、東京地方裁判所の執行官(国)が営業妨害したからである。

二、本件事案の保全訴訟の結論と本案訴訟の結論はいずれも平成三年二月一日以降事業の用に供していたことで解決している。

一、右第三のとおり、関係人の法律上の権利関係が確定しているものであるから、営業阻害事由のない限り二月一日以降の彰夫の死亡日の四月三〇日頃は営業していたはずである。

ところで、営業阻害事由がある場合には、

(イ) すべての関係人に帰責事由のない事由(例えば台風、地震等)は民商法は危険負担の問題として解決をはかる。

(ロ) 関係人に帰責事由がある場合には、民商法は保全処分制度や債務不覆行責任の追求や不法行為責任の追求によって解決することになる。

(尚、関係人間に法律上の権利関係が確定していない場合には、民商法上右(イ)(ロ)を考えること自体が有りえないことを原則としている。)

そして、契約責任や不法行為責任を追求することによって得た損害金は、法律上確定している各税所得の区分や権利義務の性質に応じて事業所得や不動産所得、その他所得等々として税務計上されるし、又得られなかった損害金は法律上確定している権利義務の性質に応じて必要経費や損失として税務処理されるのである。

本件では、平成三年二月以降五月一五日までの本件立体駐車場の営業阻害事由は、トリムシテイが彰夫に対し営業補償金を支払うことによって解決され、その所得は生前の彰夫の不動産所得として申告されている。

二、本件立体駐車場が平成三年二月一日以降営業阻害された最重要にして直接的な自由は、(イ)大野の仮処分の違法、及び(ロ)東京地方裁判所の執行官の違法にある。

東京地方裁判所の仮処分の確定した認定事実に従えば、その違法とは、(イ)大野はオクトに対し被保全権利がないにもかかわらず、これを有るものとして仮処分申請したことであり(従って、仮処分決定をしたがオクトの異議訴訟で取消されている)、(ロ)執行官とすれば右仮処分は債務名義がオクトに対するものであるからオクトが占有している限りオクトから占有を奪うべきであるのに、執行の現場では、トリムシテイ、東立、彰夫が占有しているものであるから、占有の債務者が相違ているとして、執行不能であると判断して何もせず帰るべきである。

しかるに、これを見誤って債務者でもないトリムシテイ、東立、彰夫の占有を奪ってしまった。(従って、彰夫らの逆断行の仮処分が認容された決定が出ている。)

東京地方裁判所合議保全部の判断は、甲第三〇号証に示されている。

甲第三〇号証理由欄第二、三2によれば、「別件仮処分の執行がされた際には、オクトは本件建物の占有を有していなかったのであるから、この執行による占有の取得は不適法なもので、他に相当の理由がない限り、別件の仮処分決定は取り消しを免れない。従って、この不適法な執行による占有取得によって、大野の本件建物の賃借権に対抗要件が具備されたとは言えない。」と判示しているところである。

このことにつき、控訴審判決(一四から一五頁)は、「そこにおける裁判所の判断は、あくまで被保全権利及び保全の必要性についての一応の判断に過ぎない。

裁判所が右仮処分申請を認容したからといって、それにより、直ちに仮処分申請時に申請者である彰夫の下で、右駐車場につき社会的基盤等が形成済みとなっており、これが侵害されているとの判断が示されていると考えるのはいかにも飛躍であるといわなくてはならない。」と判示する。

この判示は、裁判所が自ら司法制度を軽視ないし無視するに等しい。又、証拠採用の方法もおかしい。

保全処分と言う視点からの一応の判断は、右駐車場につき社会的基盤等が形成済(法律上の権利が確定している)となっており、それ(確定した権利)が侵害されていると判断していると考えるのが法曹の常識である。飛躍ではない。

次に、保全処分後の本件本案訴訟はいかに最終確定しているか。甲第一八号証がそれである。

和解条項

第一項、大野は、オクト、横山孝子(横山の妻を指す)、東立、トリム、利害関係人鬼塚統治(以下「利害関係人鬼塚」という。)は、亡横山彰夫において本件立体駐車場が平成三年一月三〇日当時、既に駐車場営業を開始できる状態にあったことを確認する。

第二項、大野、オクト、横山孝子、東立、トリム、利害関係人鬼塚は、大野とオクトとの間で、一九九〇年(平成二年)二月二三日付け「立体駐車場賃貸借仮契約書」により締結されている契約が平成二年一二月一六日に大野とオクト間で合意解約されたことを相互に確認する。

第三項、トリムは、東立に対し、両者間の平成三年一月二九日付け業務委託契約書に基づき、本件立体駐車場の業務着手時である平成三年二月一日から同年五月一五日まで一ヶ月当たり金六〇〇〇万円の割合による売上保証金の支払いを覆行したことを認める。

第四項、以下省略する。

仮処分で認められた事実は、本案訴訟の和解調書からしても再確認しており、社会的基盤が形成済となっており、それが侵害されているとの判断で同一である。

又、裁判所の判決及び和解調書の遡及び効力は平成三年二月一日以降に及んでいるのである。

控訴審判決は、仮処分の決定が一時性、仮定性、暫定性を有すると言う法律的性質があることを抽象的に述べるのみで、その決定理由や内容を直視していない。又、本案訴訟が関係人の法律関係を最終的に確定しているのに、本案訴訟の法律的性質について述べず、かつ和解調書の理由、内容を全く検討、精査していない。これでは、証拠採用が誤っている。

控訴審判示は、自然的、物理的に見る限り、駐車場を経営していないと言う。しかし、保全訴訟、本案訴訟の各主張、経緯及び各結果を正しい証拠採用に従うと以下のとおりとなる。

彰夫らを経営させないよう営業妨害をしたのは誰なのか。東京地方裁判所の執行官の違法執行にある。オクトの占有を奪う債務名義で、債務名義になっていない他人であるトリムシテイー、東立、彰夫の占有が奪われる事は有ってはならない。しかし、かかる執行をしてしまった。(国家賠償案件)

人の服を違法に奪い取って裸にしておいた者が、裸者に「おまえは服を着ていないと叫ぶ」ことが許されるのだろうか。

本件は、国が自ら営業妨害をして営業させなくしておいて、おまえは営業していないと言うに等しい。

クリーンハンドの原則違反であり、正義に反する。

営業していない以上、営業していないと言う一般的な常識判断は正しい。

しかし、それのみで判断すべきではない。

営業していない以上、なぜ営業していないのか、それは営業者がやる気がない等々の責任なのか、相手方や第三者の責任なのか、国の責任なのか、損害賠償としての補償金請求権があるのか、その損害金の授受が有るのかないのか、損害金は何所得と判断されるべきものなのか、などの全体を検討、精査すべきである。

その原因まで踏み込んで、かつ検討、精査して判断するのが裁判所の正しい証拠採用の姿である。

そこまで検討、精査すれば、「営業出来たのに、東京地方裁判所の執行官すなわち国が占有者を見誤ると言う違法な執行行為によって営業妨害したので、営業できないことになってしまったのだ。その妨害行為は違法だし、関係人間に営業補償金も授受されている。補償金は不動産所得である。このことは、裁判上確定している。

かかる事情からすれば、本件事案は法律上は営業していたと判断するべきだ。」と。

保全訴訟でも本案訴訟でも、「平成三年二月一日以降五月一五日までの駐車場営業出来る者は、彰夫、トリムシテイであり、大野ではない。」

「大野には、平成三年一月三〇日以降五月一五日までの営業できる権利はなく、彰夫、トリムから占有を奪った執行官の執行は違法である。」

と確定している。これが正しいと裁判所において認定されている。

しかるに、控訴審判示が事業の用に供していないと判断することは、保全訴訟及び本案訴訟における裁判所の判断及び関係人の努力や結果を無視し、「違法執行、違法占有」を肯定するものであり、違法を正しいと言うに等しい誤りをおかしている。

第五、前例判例と本案判決の矛盾について

本件事案と類似した判例として、東京高等裁判所平成六年(行コ)第一三九号事件(行裁集第四五巻一二号二〇六三頁以下)が公表されている。

一、被相続人が所有していた土地及び同土地上の建物について、相続開始前に当該建物の一部分を賃貸事業用建物として管理運用する事を目的とする信託契約が締結されたものの、相続開始時までには賃貸事業の準備行為がされていたにすぎず、相続開始後に初めて前記一部分が他に賃貸されるに至った場合において、当該一部分は相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直番(資)一七国税庁長官通達、平成三年一二月一八日付け課評二―四、課資一―六により「財産評価基本通達」と題名改正、同題名改正前)九三のいわゆる貸家には該当せず、前記建物の敷地部分は同通達二六のいわゆる貸家建付地にも租税特別措置法(平成四年法律第一四号による改正前)六九条の三第一項のいわゆる事業用宅地にも該当しないとしてした相続税の更正につき、前記貸家及び貸家建付地とは、現に借地権の目的となっている家屋及びその敷地のように供されている土地をいうと解するのが相当であり、また、前記事業用宅地に該当するか否かは、相続開始の直前において、当該宅地が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきであり、事業に供されたか否かについては、賃貸事業にあっては、賃貸借契約の締結をもって事業に供されたものとするのが相当であるとした上、信託財産についても、受託者により当該事業が開始されて初めて当該財産が事業に供されたというべきであるとして、前記相続税の更正が適法であるとされた事例」

二、右事例は、被相続人を委託者として、相続財産につき受託者との間に信託契約が締結されたとしても、信託財産の所有権は形式的には受託者に移転しているとしても、経済的実質においては受益者である委託者(被相続人)が有していることと変わらない。

客観的判断としては、受託者が将来信託財産を第三者に賃貸借契約締結を意図ないし予定して信託契約したとしても、それは信託財産の所有者の意図が外部に表象されているとはいえないから、所有者の信託契約締結のみで賃貸用の事業の用に供したとは言えない。受託者が信託財産を第三者に賃貸借契約の締結をしたことをもって、信託財産の所有者の意図が外部に表象されていると客観的判断が出来るから、賃貸用の事業の用に供してと言えるというものである。

信託契約は、内部関係と見ているのである。

尚、この判断は、賃貸借契約の締結をした時期をもって現実に事業の用に供してと判断することが一義的、明確な基準であると言う。

信託契約の締結時では準備行為の時期であって、現実に事業の用に供して時期としては未だ供していないとし、信託契約締結後の賃貸借契約の締結時を供した時期とし、賃貸借契約締結後に賃貸物件に入居者が居住している事実や、賃料集金している事実等々の時期をもって現実に事業の用に供したと判断することは、事業の用に供して時期以降のことになってしまい、その時期では多義的、不明確な基準になってしまう。

従って、これらは採用しないと言う判例と理解出来る。

三、前記判例を本件事案との対比において検討する。

A、被相続人が自ら行うのでなく、第三者を介して賃貸事業の用に供すると言う為には、被相続人が第三者に対し相続財産を賃貸する、ないしは第三者に再賃貸しても良いという賃貸契約を締結すれば賃貸事業の用に供したと判断する。

その間に相続人が相続財産を信託した場合には、それは内部関係であるから受託者が第三者との間に賃貸借契約を締結すれば、賃貸事業の用に供したと判断する。

B、被相続人が自ら行うのではなく、第三者を介して駐車場事業の用に供すると言う為には、被相続人が第三者に対し相続財産を駐車場利用契約する、ないしは第三者に再賃貸しても良いという利用契約を締結すれば、駐車場事業の用に供したと判断する。横山対東立は、同族関係であるから内部関係といってよいかもしれないが、東立対トリムは内部関係ではない。トリムは明らかに第三者に該当する。

(一) 横山対東立、東立対トリムの各委託契約の法律上の性質及びその内容について。

この契約は委託契約と言う名称を使用しているが、その実質内容は以下のとおり。

1、横山、東立はトリムに対し、本件土地、建物全部を一括駐車場として賃貸する。

2、トリムは、駐車場の管理業務としてその維持、管理、収益行為を行って対価を得る。収益行為とは、再賃貸して、固定利用者に対しては固定的には契約を締結して、駐車場として利用させて固定駐車料を取り、不特定多数の利用者に対しては、その時に応じて駐車場として利用させて時間割の駐車料を取る。

繁華街の一般駐車場であるから、すべての利用者と契約書を締結することは有りえない。

3、横山、東立はトリムに対し、固定管理料(第二条)及び歩合管理料(第五条)を支払う義務がある。

4、トリムは東立、横山に対し、固定賃料(第三条)及び歩合賃料(第五条)を支払う義務がある。

5、右3、4、の管理料、賃料は、契約の締結によって平成三年二月一日以降双方に対し支払う義務が生じている。

契約当事者らに対し、右3、4、の管理料と賃料を支払っても良いし、支払わなくても良いと言う権限を与えたものではない。又、契約当事者に駐車場として利用させても良いし、利用させなくても良いと言う権限を与えたものではない。この契約は、有償双務契約であり業務を委託していることと賃貸借契約をしていることが混在している。

横山、東立が第三者のトリムに対し右契約を締結したことは、本件土地建物が内部的に意図していることが客観的に外部に表象されていることを意味している。

(二) トリムの利用顧客との契約について。

これは、本件駐車場は不特定多数の流動顧客を対象とする部分については、利用行為、対価の支払が行われるだけで利用に関する契約書など作成しないのが商慣例である、又、固定利用する顧客については、駐車場利用に関する賃貸契約書を作成しており、この契約も三件成立している。

(三) 前記判示するところと対比すると、前記判示の賃貸事業に有っては賃貸借契約の締結を指すと言う場面は、本件事案では駐車場であるから、駐車場についての業務委託契約の締結を指すことは明らかであろう。その契約の成立を前提として、利用顧客と対価支払いや、一部固定客との利用契約は委託契約後の覆行行為の一部に該当するのである。

よって、右判例に従えば本件事案は、駐車場の用に供していたと解される。

(四) 本件は前記判例と対比すると、業務委託契約1、2、の締結をもって事業の用に供していると判断されるべきであるが、前記判例以上に目的物の引渡まで完了しており、前記判例以上に過分な要件を満たしている。

さらに加えて、補償金と言う駐車場収入まで得ている。

(五) よって、高等裁判所レベルにおいて前記判例と本件控訴審判決は不統一、ないし矛盾があり、この際最高裁判所として「事業の用に供している」とは何かの統一見解を出して欲しい。

以上

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